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岡山地方裁判所 平成2年(ワ)20号 判決

原告

道家俊雄

被告

佐藤年男

主文

1  被告は、原告に対し、金八一万九七五〇円及びうち金六一万五九二九円に対する昭和五八年九月五日から、うち金二〇万三八二一円に対する平成二年一月二〇日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、これを四〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

4  この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金二五八五万五五九九円及びうち金二三五五万五五九九円に対する昭和五八年九月五日から、うち金二三〇万円に対する平成二年一月二〇日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、普通自動車と衝突して負傷した自転車の運転者が自賠法三条に基づき損害賠償を請求し、原告が被扶養家族として加入していた公立学校共済組合から受けた高額療養費の払戻金を被告に支払つたことによる不当利得返還を請求している事件である。

一  争いのない事実

1  事故

被告は、昭和五八年九月四日、岡山市西川原一丁目一五番九号先道路において、同人が所有し自己のために運行の用に供する普通貨物自動車(岡山四〇き五七三五、加害車両)を運転走行中、原告が運転する自転車(被害自転車)に衝突したものである(本件事故)。

2  損害費目としての治療費(二三万四〇七九円)

3  原告から被告への支払

原告は、同人が扶養家族として加入していた公立学校共済組合から受けた高額療養費の払戻金の支払を被告から請求され、被告に対し、昭和五八年一二月二二日、同額の一五万三八二一円を支払つた。

二  争点

1  本件事故の態様

(原告の主張)

原告が前記道路を被害自転車に乗つて北進走行して、信号のない見通しの悪い交差点(本件交差点)に進入したところ、折から東進してきて本件交差点に入つてきた加害車両と出会頭に衝突した。

2  受傷の内容

(原告の主張)

原告は、本件事故により、左側頭部陥没内出血、左腕・左大股擦過傷、右小脳挫傷及び中等度右小脳失調症の傷害を受けた。

3  後遺障害

(原告の主張)

原告は、右傷害の結果、中等度右小脳失調の後遺障害が残つた。

4  損害

(原告の主張)

(1)治療費二三万四〇七九円、(2)入院雑費五万五〇〇〇円、(3)通院交通費二万二〇〇〇円、(4)逸失利益三四二八万二九九九円、(5)慰謝料七〇〇万円、(6)弁護士費用二三〇万円

5  過失相殺

(被告の主張)

加害車両の進行路の幅は約四メートル、被害自転車の進行路の幅は約一・七メートルに過ぎない。被害自転車の進行路の本件交差点手前には一時停止の標識がある。原告は、帰宅を急ぐあまり、一時停止を怠り、左右の安全を確認せず、最大限の速度で本件交差点に進入した過失がある。

(原告の主張)

各道路の幅は、被告主張のとおりであるが、本件交差点の東南端にはカーブミラーが設置されている。加害車両の進行方向の右側は高さ三メートルのブロツク塀があつて、被告からはその右側から進行してくる被害自転車を発見することは非常に困難な状況にあつたが、被告は、少なくとも時速約三〇キロメートルで本件交差点に差し掛かり、右カーブミラーが太陽に反射して眩しくて見えなかつたのに、徐行をせず、そのままの速度で本件交差点に進入した過失がある。

6  損害の填補

(原告の主張)

自賠責保険金五三九万六四〇〇円、被告支払分七四万二八七九円

(被告の主張)

自賠責保険金五三九万六四〇〇円、被告支払分七四万三三七九円

第三争点に対する判断

一  本件事故の態様

原告主張のとおりである(甲二、三、乙六)。

二  受傷、後遺傷害の内容及び程度

原告は、本件事故により、頭蓋底骨折、脳挫傷、脳脊髄液漏出、外傷性クモ膜下出血、外傷性小脳失調症の傷害を受け、総合病院岡山赤十字病院に、昭和五八年九月四日から同年一〇月二八日まで五五日間入院し、同年一〇月二九日から昭和六三年二月一五日まで実日数二二日通院して治療を受け、昭和六三年二月一五日、症状は固定したが、右小脳症状(鼻指鼻試験測定障害、軽度の歩行失調行為)の後遺障害が残つた(甲四ないし一一、証人鈴木健二)。右の後遺障害は右手、右足に現れているものであるが、右足の歩行障害(右足を引きずる)は軽度であつたこととその後の原告の回収訓練によつて、ある程度改善されてきているが、右手指の細かな微妙な操作(例えば書字など)は、訓練によつて回復の可能性はあるものの、必ずしも回復していない現状にある(甲七、一二の1ないし八、一四、乙二一の1ないし3、5、四、五、証人鈴木健二、原告)。

三  損害

1  治療費 二三万四〇七九円

原告と被告の間において争いがない。

2  入院雑費 五万五〇〇〇円

入院期間は五五日間であり(前認定)、前記傷害の内容、程度によれば、この間の雑費は日額一〇〇〇円と認めるのが相当である。

3  通院交通費

通院交通費については、原告が通院にどのような交通手段を利用したか及びその費用についてこれを認めうる証拠はない。

4  後遺障害による逸失利益 七六〇万三五七七円

前認定原告の後遺障害の内容、程度及び回復の程度と大正海上火災保険株式会社岡山損害調査センターが右後遺障害は自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表の一四級に該当するとの認定をしていること(甲一九)を総合すると、昭和四七年一〇月二一日生まれ(本件記録中の戸籍謄本)である原告は、右後遺障害により、前記症状固定の日(昭和六三年二月一五日)から六七歳に達するまで五一年間を通じて、その労働能力の七パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。

原告は、本件事故後、高等学校に進学しており、また大学へ進学することを希望しているから、大学を卒業する平成七年四月から六七歳まで、少なくとも、平均して、平成二年賃金センサス第一表・産業計・企業規模計・男子労働者・新大卒・全年齢平均の年収額六一二万一二〇〇円の年収を得ることができたと推認されるので、この額を基にホフマン方式(本件事故後六七歳までは、約五六年で、五六年のホフマン係数は二六・三三五四、本件事故から満二二歳までは約一一年で、一一年のホフマン係数は八・五九〇一)により中間利息を控除して、右期間の逸失利益の現価を求めると七六〇万三五七七円となる。

6,121,200円×0.07×(26.3354-8.5901)=7,603,577円(円未満切捨て)

5  慰謝料 二五〇万円

前記治療の経過と後遺障害の内容、程度等諸般の事情を考慮すると二五〇万円が相当である。

四  過失相殺

1  本件交差点に至る原告の進行路の幅員は約一・七メートルであり、被告の進行路の幅員は約四メートルで、原告の進行路の本件交差点手前左側には高さ約三メートルのコンクリートブロツク塀があつて、被告が進行してくる方向の見通しは極めて悪く、本件交差点手前には、路上に一時停止の指示白線が引かれ、また一時停止の標識が設置されており、本件交差点の手前で被告の進行路の右側(原告の進行してくる方向)には高さが約三メートルの石垣とコンクリートブロツクによる塀があつて、加害車両の運転席が本件交差点に入るまでは、原告が進行してくる方向は全く見えない状況にあり、本件交差点の東南角には、原告の進行路を写すミラーが設置されていた(甲二、乙一、二の1ないし5)。

2  原告は、被害自転車に乗つて本件交差点を通過しようと走つていたが、本件交差点に入るまえに一時停止をせず、そのまま本件交差点に進入した(原告、弁論の全趣旨)。また、被告も、折から太陽の光で右ミラーが反射して、原告の進行路の状況が確認できない状況であつたにもかかわらず、減速又は徐行をすることなく、時速約三〇キロメートルの速度のまま、本件交差点に進入した(被告)。その結果、本件事故が発生したものである。

3  右各事実によると、原告には、本件交差点手前で一時停止をした上、本件交差点通過についてその安全を確認する注意義務を怠つた過失があり、被告もまた、減速又は徐行して、右同様の安全確認を欠いた過失があり、右双方の過失を対比すると、原告の損害額から三割五分を減額するのが相当である。

そうすると、被告が原告に対し賠償すべき損害額は六七五万五二二六円となる。

五  損害の填補 六一三万九二九七円

原告と被告の主張する填補額の差額五〇〇万円(前出の文書料五〇〇円)を被告が原告に支払つたと認めうる証拠はないから、損害の填補額は、自賠責保険金五三九万六四〇〇円、被告支払分七四万二八七九円、合計六一三万九二九七円であり、これを右損害額から控除すると六一万五九二九円となる。

六  弁護士費用 五万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害は、これについて本訴状送達の日の翌日からの遅延損害金が請求されているから、右始期から本件口頭弁論終結時までの中間利息控除等を考慮して、五万円と認めるのが相当である。

七  不当利得

原告は、被告に対し、昭和五八年一二月二二日、原告が被扶養家族として加入していた公立学校共済組合から受けた高額療養費の払戻金と同額の一五万三八二一円を支払つたが(前記争いのない事実)、被告において治療費を支払つているとしても、そうであれば、原告は、右組合に対する関係で、右払戻金の受給当時、この受給原因がなかつたというに過ぎず、原告に右金員を原告から受領する法律上の原因はなく、右金員を利得しているものということができ、原告は、被告への右支払により、右支払額と同額の損害を受けているから、被告が悪意であつたとの主張のない本件においては、被告は、原告に対し、右不当利得金一五万三八二一円とこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成二年一月二〇日から民法所定の年五分の遅延損害金を支払う義務がある。

(裁判官 岩谷憲一)

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